ガジェット通信に掲載された押井守インタビュー「東京国際映画祭『機動警察パトレイバー2 the Movie』上映記念・押井守監督独占インタビュー! 東京を舞台に戦争を仕掛ける幻想を遂に実現できたのが『パトレイバー2』」https://getnews.jp/archives/3358813 の中に記述された「パトレイバー3」について考えました。
でも実は『パトレイバー3』を真剣に検討していた時期があったんだよ。
押井: あからさまには言わないけどさ、日本海側にいろいろ建っているじゃない? 本当にこの国は戦争のことを何も考えていないんだなと痛感していたから、それを『パトレイバー3』のテーマにしようと思った。劇場版の1本目の『機動警察パトレイバー THE MOVIE』(89)でプログラマーの幌場瑛一をテロリストとして登場させ、『パトレイバー2』では元自衛隊員の柘植行人を出し、実写版の『THE NEXT GENERATIONパトレイバー 首都決戦』(15)では戦闘ヘリのパイロットとして灰原零を登場させた。──亡霊として。
押井: そう。苦し紛れに亡霊にしたんだけどさ。その灰原が限界で、もはやテロリストのイメージを持てなくなっちゃった。テロリストと戦う話では成立しない。だから『パトレイバー3』をやるのであれば、身内から敵を出そうと思った。
ガジェット通信 東京国際映画祭『機動警察パトレイバー2 the Movie』上映記念・押井守監督独占インタビュー! 東京を舞台に戦争を仕掛ける幻想を遂に実現できたのが『パトレイバー2』https://getnews.jp/archives/3358813
このインタビューはとても良かったです。
「パトレイバー」の新作劇場映画が名前だけ出ていて一向に制作の動きが見えなかったのですが、その一幕を語ってくれたからです。現在発表されている出渕裕監督の「パトレーバーEZY」は、押井監督の企画が流れた後の企画と思われます。「パトレイバー2」をやったときからヘッドギア(ゆうきまさみ、出渕裕、高田明美、伊藤和典、押井守)の中での亀裂があったので、正直押井作品として「パトレイバー3」が出来るなら奇跡だと筆者も思っていました。
だからさ、やっぱりね、これでヘッドギアとの関係も終わりだと思った。終わってもしょうがないかなと覚悟していたし、もうコリゴリだとも思っていた。漫画家がいて、キャラクターデザイナーとしてイラストレーターがいて、脚本家がいて、メカデザイナーがいる。一見すると完全無欠のチームに思えるじゃん?
──このチームで『パトレイバー』とは別のアニメ企画も始動するはずだと思っていました。
押井: そう思っていた人は多かったみたいだね。でも無理なんだよ。ヘッドギアのほかの4人もコリゴリだと思ったはず。
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ヘッドギアは作家集団であり、それぞれに思惑があるので、指向性や制作の意味の部分でぶつかり合いがないわけがないと思います。もしかしたら上手な映画監督であれば、それぞれの意見を取り入れつつ、見事なエンターテイメント映画を作れたかもしれませんが、押井はそれを狙いに行かなかったみたいです。
「パトレイバー」という企画自体が、リアルな現実社会を舞台にしている以上、社会性を持たざるを得ないと考える押井が「今の社会情勢にぶつけるならこれだ!」という爆弾のような映画を作ろうとしたのは理解できます。逆に言えば、そういう社会性・時代性を先取りしたような内容でなければ「パトレイバー」って漫画になってしまうと思います。面白楽しい漫画の範疇の「パトレイバー」を作り出してしまったら、それはもう「パトレイバー」ではない、押井はそのように考えます。
先に引用した押井案の「パトレイバー3」は日本海側の原発銀座をテロが狙う内容で、それを身内のメンバーが実行するという、まぁ「パトレイバー」を今後作れなくなってしまうような内容なので流れたのかもしれませんが、絶対に面白くなり間違いなく映画的にパンチのある企画だったと思います。
ただ、押井自身も語っているようにウクライナで原発を巡って戦闘が行われてる現代においてはインパクトは無いかもしれません。でも見たかった・・・という気持ちです。日本のアニメで原発テロを描くチャンスなどこれ以外に今後出てくるとも思えないからです。
「パトレイバー1」ではコンピューターウイルス、「パトレイバー2」はPKOと東京の内戦というテーマを扱った以上、「パトレイバー3」もその路線で行くしかなかったようにも思います。という風に考えると押井監督が抜けたあとの「パトレイバーEZY」には正直期待できないなぁというのが筆者の気分です。
今こうして書いていてあらためて気が付いたのですが、押井監督って「自分がこのシリーズを終わらせるくらい決定的な映画を作る」という意思が強いのだとわかります。
それは「ビューティフルドリーマー」しかり、「押井ルパン」しかり、「パト2」しかり、「イノセンス」もしかり。パート2物の映画に於いて、前作のような映画だと思って見に来た観客を良い意味で裏切るには、終わらせてしまうのがいちばんかもしれません。ヘッドギアのメンバーももういい歳ぞろいです。「パトレイバー」も次で最後でしょう。なら押井の企画で良かったのではなかったか、と筆者は思います。
原作者と付き合うのはそれなりに難しくて、僕も2、3回しか成功したことがない。『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(08)の森博嗣さんとはいい関係を築けたし、『GHOST IN THE SHLELL/攻殻機動隊』(95)の士郎正宗さんとは互いに口出ししないという暗黙のWin-Win関係が最初から成立していた。あとは、まあ、本当にことごとく失敗した。失敗したってことは、仕事として実現しなかったという意味も含めての失敗だけど。
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映画とは、甘いお菓子のようなものではなく観客をこん棒で殴るようなもの、と考える押井の監督作がことごとく企画が潰れてしまう理由もわかります。映画を公開するタイミングに合わせた「爆弾」を仕込むためには原作の改変、換骨奪胎を行わざるを得ず、それが原作者の逆鱗に触れる可能性は高いと思います。映画を作るとはそういう事だと理解してくれる原作者とでなければ組めません。ならオリジナルでやった方がいいのですが、押井のオリジナル企画は興行的には失敗するのが見えているから企画が通らないのも悩ましいですね。押井自身も「原作があったほうが自分の色が出しやすい」って言っているので、今後押井監督作を見るのが難しいかもです。。。
「キマイラ」原作:夢枕 獏もその後全く音沙汰を聞かないので、多分流れたのかもしれないですね。悲しいです。
このインタビューは近年は映画評論オジサンになっていた押井の牙が現在も残っていたことを垣間見させてくれて、嬉しかったです。
押井監督の次回作に期待します。